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September 05, 2013

最近読んだ音楽書いろいろ

2013/9/3(火)

 読もう読もうと思って読んでいなかった本をいろいろ読むことができたので、まとめて感想を。


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 『あべのぼる自伝 1969年、新宿PIT INNからはじまった』(上田賢一編著、K&Bパブリッシャーズ、2012年)は、山下洋輔トリオのマネジャーや大阪のオレンジ・レコードの代表者だった阿部登の語りを上田賢一がまとめたもの。
 3年前に亡くなった阿部さんには、『ニューミュージック・マガジン』にいたころからぼくは取材でお世話になった。その後、渡辺プロダクションのノンストップの仕事では接点がなくなったが、いろんなところでよく顔を合わせた。亡くなる何年か前に一度、京都だったか大阪だったか、ライヴでうたうから聞きに来ないかという電話をもらったことがある。そんな電話をもらったのは、後にも先にもはじめてだったので、いまにして思えば、体調がよくないので、会いたいという電話だったのかもしれない。「え、歌もうたうの?」と間の抜けた返事をしただけで、行かなかったことが悔やまれる。
 この本は、少年時代の思い出と、新宿に出てきてからの思い出が交錯するように構成されている。自伝のほとんどがそうであるように、順調に仕事をはじめるまでの回想が圧倒的におもしろいが、山下洋輔トリオ、中川イサト、ディランⅡ、西岡恭蔵、ソー・バッド・レビューなどに興味がある人は、ぜひどうぞ。
 彼は歌手としても活動していたが、ぼくはライヴに行けなかった。
 なお、彼の物語は河内音頭にうたわれてCDにもなっている。聞きごたえたっぷりの節と演奏だ。
 『KAWACHI ONDO ABE NOBORU= FUJIYOSHIKI/AZUMI MEETS IPPEI YAMANAKA』
(ASIARECORD ABE777)

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 『エゴ 加藤和彦、加藤和彦を語る』(牧村憲一監修、加藤和彦/前田祥丈著、スペースシャワーブックス)は、1993年に加藤和彦がセルフ・カヴァー・アルバムを準備していたときに行なわれたインタビュー集。夫人の安井かずみの病気看病で、加藤のアルバムが出なくなったため、お蔵入りになっていたが、めぐりめぐって今回刊行された。
 インタビューではデビュー前から90年代初頭までの活動が振り返られ、随所でインタビュアーの前田祥丈が活動の詳細を補足したり、時代背景を説明したりしている。音楽業界を軽やかに泳いでいたように見えた彼が、やりたい音楽を貫くために実はレコード会社としばしば対立していたことをこんなに語った本はこれまでなかった。そういう気配を見せないのが彼のサービス精神であり、ダンディズムだった。レゲエのリズムをはじめて取り入れたのはどの曲かという話もこの本で知った。詳細な注やディスコグラフィーがついていて、ざっと彼の活動をたどるのに便利な本だ。

 奥和宏の『アメリカン・ルーツ・ミュージック ディスクでたどるアメリカ音楽史』(アルテスパブリッシング)は、100枚のアルバム+参考の200枚のアルバムによるアメリカン・ルーツ・ミュージック・ガイド。同じ著者の『アメリカン・ルーツ・ミュージック 楽器と音楽の旅』のCDガイド版といってもいい。
 ひとくちにアメリカのルーツ・ミュージックといっても、範囲は広い。ここではミンストレル・ショーの音楽からはじめて、ストリング・バンド、ブルース、ジャグ・バンド、カントリー、フォーク、シンガー・ソングライター、カントリー・ロック、ハワイアンなどのアルバムがとりあげられている。弦楽器編成のストリング・バンドの音楽は、音楽が細分化していく1930年代より前には大きな位置を占めていたが、日本ではあまり紹介されてこなかった。その意味でこの本の視点は重要で、白人と黒人の音楽が大きくちがってきた後の時代しか知らない人にとっては、発見が多いと思う。
 ジャズやゴスペルや東ヨーロッパからの移民の音楽やラテン系の音楽はほとんどふれられていないが、枚数の都合で入らなかったということだろう。その点を加味して読みたい。巻末にこの分野の音楽に詳しい麻田浩のインタビューと人名索引がついている。

 斎藤完の『映画で知る美空ひばりとその時代 銀幕の女王が伝える昭和の音楽文化』(スタイルノート)は、出演した映画から美空ひばりを読み解く本だ。
 巻末にリストが掲載されているが、この時期のひばりは、主演、脇役含めて驚くべき数の映画に出ている。全盛期には毎月!何かしら彼女の出演映画が公開されていたほどだ。著者は以前からその研究を進めている人だが、これはその研究をもとに一般の読者向けに書かれた本で、1950年の『東京キッド』から1971年の『ひばりのすべて』まで、10本の映画を選んで、音楽、役割、彼女をとりまいた状況などを紹介しつつ、人気の浮力に支えられていたひばりの歩みを概観している。
 いまでは美空ひばりの映画を見たことがない人が圧倒的に多いが、映画を抜きにして全盛期の彼女について語ることはできない。それなのにこれまでこういう本はなかったので、ありがたい。ひばりの映画にかぎらず、日本映画の中の音楽場面の体系立った研究はほとんど行なわれていない。この本がきっかけとなって、研究や紹介ず進むことを願いたい。

 関口義人の『ヒップホップ! 黒い断層と21世紀』(青弓社)は、ヒップホップをアフリカン・アメリカンの間から生まれた文化という側面からだけでなく、世界的に広がった現象という側面からまとめた本だ。
 著者はジプシー/ロマの音楽の研究、紹介者として知られているので、ヒップホップの本というのは意外だったが、以前から好きで聞いていたそうで、その体験をまとめる意味もあったのだろう。この本ではヒップホップの大まかな歴史、トリップホップ、日本のヒップホップ、ミックス・テープ、世界各地のヒップホップなどについて語られている。一冊の本にいろいろ詰めこんだので、説明の濃淡やテーマの取捨選択に限界があるのはやむをえないが、それはそれぞれ専門書にあたればすむだろう。
 この本の特徴は「移民」という視点からヒップホップをとらえようとしていること。日本でのヒップホップ本にはこれまでこういう視点はなかったと思う。飛行機でフランスのラッパー、MCソラールと隣り合わせになった話のような個人的なエピソードもおもしろい。

 湯浅学監修『日本ロック&ポップス・アルバム名鑑1966-1978』(ミュージック・マガジン)は、日本のポピュラー音楽のアルバムを、歌謡曲も含めて、時系列にそって紹介した本で、900枚弱の作品がとりあげられている。
 ぼくも少し書かせていただいたが、複数枚選ばれているアーティストは一人の筆者が担当するという編集方針のようだ。アルバムの紹介文は、編集サイドで大小ふたつの枠にふりわけてから、依頼が来た。
 この本から時代背景まで系統的に読み解くのは、ある程度知識がないと難しいかもしれないが、ジャケットがすべてカラーなので、ぱらぱら見るのが楽しいし、それである程度時代の流行も推測できる。こんな音楽とこんな音楽が同じ時期に出ていたんだということがわかるのも楽しい。

 まだまだあるので、追ってまとめて書きたい。

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