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April 04, 2016

浅川マキの『Maki Asakawa UK Selection』

2016年4月3日(日)

 浅川マキの『Maki Asakawa UK Selection』というアルバムをプロデューサーの寺本幸司さんから送っていただいた。イギリスのオネスト・ジョンズから発売された編集アルバムを日本盤化したものだ。
 オネスト・ジョンズは70年代からロンドンのポートベローにあるレコード店で、ブルースを中心に多様なレコードを扱っていたが、21世紀に入ってブラーのデーモン・アルバーンと手を組んでレーベルを作り、復刻や新録も手がけるようになった。このレーベルによる20世紀前半の貴重なSPや7インチ音源の復刻盤からぼくは多くのことを教えられている。

 同レーベルのサイトは浅川マキを、演歌、フォーク、ブルースを内包するカウンターカルチャー的なジャズ歌手として紹介している。たしかに彼女は同時代のフォーク、ロック系のシンガー・ソングライターとちがって、ジャズ的なブルースをベースに曲を作っていた。ヒットした「かもめ」は歌謡曲的なワルツに聞こえたが、それはこの曲が歌謡曲と「主にジャズ系のミュージシャンが演奏し、ミックスでヴォーカルを前に出し、各楽器の音を明確に録音する」方法を共有していたからであり、彼女には米軍キャンプでうたった洋楽体験と同じくらい歌謡曲の体験があったからでもある。たとえば亀渕友香は回想で、浅川マキは美空ひばりの歌をすごくうまくそのとおりにうたえる人だったと語っている(『ロング・グッドバイ 浅川マキの世界』)

 音楽業界内でのロック系の音楽と歌謡曲の溝が、いまとちがって非常に大きかった当時、ロック系の音楽に夢中だったぼくは、彼女の音楽のよい聞き手とは言えなかったが、逃げても逃げても追いかけて来る声というか、ジャズ的な演奏にとらわれずに調子はずれ寸前のところで綱渡り的なバランスを保っている彼女の低い歌声は耳にこびりついて離れなかった。

 選曲基準については書かれていないが、イギリスの選曲者や聞き手には、ジャズやリズム&ブルースのエキゾチックな解釈として新鮮に感じられるのか、1曲目には笛が雅楽や民謡の笛のように聞こえる「眠るのが怖い」が選ばれている。数多い洋楽曲の中からラダ・クリシュナ・テンプルの「ゴビンダ」が入っているのもイギリスならではだ。山木幸三郎や山下洋輔が作曲した洗練された曲はサウンド的に外国の人にもなじみやすいのだろう。

「夜が明けたら」「少年」「裏窓」など、日本のベスト盤になら入る曲が入っていなくて、「ちっちゃな時から」が2ヴァージョン(スタジオ録音のイントロはBS&Tを借用している)収録されているのもこのアルバムの特徴だ。その「ちっちゃな時から」で、リズム&ブルース的な演奏によくのって彼女がビブラートやこぶしを使いながらうたうのを聞いて連想したのは往年のタイ歌謡の女王プンプァンのアップテンポなヒット曲だった。昔はプンプァンのことなど知らなかったので、このアルバムで久しぶりに彼女の歌を聞いて、またひとつ楽しみが増えた。両者の類似は、相互の影響があったとは思えないので、偶然だろうが、これは洋楽的な演奏にアジアの言葉が出会って歌が生まれるときに、遠く離れたところで同じような現象が起こりうる例として記憶しておきたい。

 ロンドン大学で日本語や日本文化を教えているアラン・カミングスが、70年代中頃までの浅川マキの活動をデビュー前の経歴も含めて俯瞰的に詳しく書いている解説も参考になる。

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