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September 08, 2018

空港時光、紅い木のうた

2018年9月7日(金)
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まもなく平成という年号が終わりを迎える。30年前やその前ともちがって、年号が天皇の生死と直接関係のない終わり方をするのは久しぶりのことだ。われわれは昭和が30年前に終わったと思って疑わない。しかし73年前にそうでない終わり方をした昭和もあったことを忘れている。それを気づかせてくれたのは、温又柔の短編集『空港時光』収録の短編「百点満点」だった。
その主人公は昭和初期に台湾で生まれ育った男性。少年時代の彼は「祖国」から来た国民党の軍隊が日本人が残した神社を壊す光景を目撃する。その神社はもともと関帝廟を壊して建てられたものだった。主人公は植民地だった台湾で「昭和」がその夏に終わったことを実感する。
『空港時光』は、そんなふうに言葉や文化をとおして台湾と日本の間を往還して生きる人たちの物語を軽やかにつむいでいく。その物語は下手な歴史書よりずっと現実感あふれる形で心にふれてくる。
日本で活動するエリ・リャオ・トリオのCD『紅い木のうた』に「美しき稲穂/美麗的稲穂」という曲が入っている。プユマ人のソングライター、陸森寳作のスタンダード的な名曲だ。台湾と中国の間では、50年代から70年代まで戦闘が続いていた。その事実を背景に、前線の金門島に送られた兵士が故郷を思う設定でこの歌は作られている。
タイヤル系のエリ・リャオは、プユマのこの歌を歌うにあたってためらいがないわけではなかった。しかし福島に移り住んで農業を営んでいた農家についてのドキュメンタリー番組を見て、背中を押されたという意味のことをアルバムの解説で書いている。「美しき稲穂」に続いてうたわれるのは菊池章子の「星の流れに」だ。
ニューヨークでジャズを学んだ彼女は、アルバムでは英語でもうたっている。原住民の民謡のようなスキャットもある。ギターとベースは日本人だ。多重のアイデンティティに立脚する浮遊感のある音楽を聞いていると、『空港時光』とはまた別の角度から歴史の物語が聞こえてくるような気がする。

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